大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所秋田支部 昭和33年(う)36号 判決

被告人

小田川正

主文

原判決の有罪部分のうち原判示一乃至五の事実に関する部分(主文第一項のうち(一)の部分)を破棄する。

被告人を原判示二乃至五の事実につき懲役三月に処する。

本件公訴事実中窃盗未遂の点は無罪。

原判示六乃至二十二の事実に関する部分の本件控訴を棄却する。

理由

弁護人米沢多助の陳述した控訴趣意は同弁護人及び被告人各作成名義の控訴趣意書(被告人名義の控訴趣意中犯罪事実を否定する点は原判示一、十六、十八、二十二であると釈明す)の記載と同一であるからこれを引用する。被告人の控訴趣意中事実誤認の論旨について。

原判一、十六、十八、二十二の各窃盗の犯罪事実は被告人の否定するところであるが右一を除く爾余の事実は原判決の挙示する関係各証拠を綜合してこれを確認するに十分である。そして当審証人工藤友一の証言及び被告人の司法警察員に対する供述調書の記載自体等によれば被告人の司法警察員に対するこの部分の自供は任意性に欠くるところなく他に記録を精査し当審における事実取調の結果に徴するも右認定が事実を誤認したものと疑わしめる点は毫も存しない。しかしながら原判示一の犯行については青森少年鑑別所長小林喜代治作成の回答書の記載及び原審並に当審証人小田川みきの供述によれば被告人は昭和二十八年七月二十七日より昭和二十八年八月二十四日まで青森少年鑑別所に収容せられていて右犯行の日時である同年八月十五日には被告人は右鑑別所に在所していたことを確認しうるのであるから右犯行が被告人の犯行でないことは明白で原審はこの点において審理を尽さず事実を誤認したものといわなければならない。そして右違法は原判示確定判決前の判決に影響を及ぼすことが明かであるからこの部分は全部破棄を免れず論旨は理由があり確定判決後の部分に対する論旨は理由がない。

被告人の爾余の控訴趣意及び弁護人の控訴趣意(量刑不当)について。

確定判決前の部分に対する論旨は後記自判の際自ら示されるのでこれを省略し確定判決後の部分に対する量刑を審按するに記録により確認しうる被告人の性行、経歴、本件各犯行の動機、態様、犯罪の回数等諸般の情状に鑑みれば所論の事情を斟酌考慮するも原審の科刑は相当であつて重いと認めることはできない。論旨は理由がない。よつて原判決の有罪部分のうち確定判決前の原判示一乃至五の事実に関する部分(主文第一項のうち(一)の部分)は刑事訴訟法第三百九十七条第一項により破棄し同法第四百条但書により改めて次のとおり判決する。

原判決の確定した二乃至五の事実に法令を適用するに右は各刑法第二百三十五条に該当するところ以上は原判決認定の確定判決前のものであるので同法第四十五条後段第五十条により同法第四十五条前段第四十七条第十条を適用して犯情の最も重いと認める原判示二の罪の刑に併合罪の加重をした刑期範囲内において被告人を懲役三月に処すべきものとする。

本件公訴事実一の窃盗未遂の点は犯罪の証明がなく犯時被告人は青森少年鑑別所に観護措置により収容中であつたことが窺われるので刑事訴訟法第三百三十六条に則り無罪の言渡をする。

原判決の有罪部分のうち確定判決後の六乃至二十二の事実に関する部分の本件控訴は刑事訴訟法第三百九十六条によりこれを棄却すべきものとする。

(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 小田倉勝衛 裁判官 三浦克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例